UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

同窓会の会話はなぜ「勝ち負け」のゲームになるのか

同窓会の会話はなぜ「勝ち負け」のゲームになるのか
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虚無からの帰還

ラボのソファに、抜け殻のようになった潮目が沈んでいた。

その姿は、まるで観測フィールドで豪雨に打たれた後の残骸のようだ。

「潮目さん、おかえりなさい」

メンテナンスを終えたナギが、平坦な声で尋ねる。

「……ただいま、ナギ君」

「高校の同窓会、いかがでしたか。その様子だと、何か観測対象として興味深い生態でも?」

「いやあ、もう……なんていうか、虚無だったよ」

潮目は天井を仰ぎながら、力なく笑った。

「僕が『データと風景のあいだを観測してるんだ』なんて熱く語っても、みんな『へえ、よくわかんないけど頑張ってるんだ』って感じでさ」

「想像に難くないですね」

「最終的には『まあ、潮目は昔から変わらないよな!』で全部片付けられちゃった。会話のキャッチボールっていうか、一方的な壁当てをしてる気分だったよ」

その言葉に、ナギは少しだけ間を置いてから、静かにモニターへ視線を移した。

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「すごい上司」という名のトロフィー

「でもさ、一つだけ異常に盛り上がった瞬間があったんだ」

潮目がむくりと身体を起こす。

「僕の上司の話になった時だよ。『うちの所長がさ』って、白波所長の名前を出したら、急に空気が変わったんだ」

「……ボス、ですか」

ナギの口調が、ほんのわずかに硬くなる。

「そう! 男子連中は『え、あの白波さん!? マジで!?』ってすごい食いつきでさ。どんな人なんだって質問攻め。で、女子たちは……なんというか、遠巻きに探るような、ちょっと棘のある視線?嫉妬、なのかなあ」

「なるほど。状況は理解できました」

ナギはそう言うと、一つのテキストをディスプレイに表示させた。

「潮目さん、この言葉はご存知ですか」

Most conversations feel productive but go nowhere because people want to win, not solve.
(多くの会話は生産的に感じられても、どこにも行き着かない。なぜなら人々は解決したいのではなく、勝ちたいからだ。)
出典: Your Conversations Are Stuck, Here's How to Break Free (Psychology Today)

「勝ちたい、か……」

潮目は、ディスプレイに映し出された一文を、ただじっと見つめていた。

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

僕たちは「解決」より「勝利」を求めている

「同窓会のような社交の場における会話は、問題解決のための議論ではありません」

ナギは淡々と分析を続ける。

「それは、自身の社会的地位や幸福度を確認し合う、一種の生存戦略。つまり『勝利』するためのゲームです」

「ゲーム……」

「はい。潮目さんの『データと風景のあいだ』という仕事内容は、彼らの価値観では勝利の指標になり得ない。だから『よくわからない』で処理されるんです」

「うっ……的確だけど、刺さるなあ」

「しかし、『絶世の美女で有名な白波所長』は違います。男性陣にとっては『そんなすごい人物を上司に持つ自分』という分かりやすいトロフィーであり、勝利の証になる。女性陣にとっては、それが敗北感や嫉妬に繋がる。ただそれだけのことです」

ナギの冷静な分析に、潮目はぐうの音も出ない。

「そっか……じゃあ僕が悪いんじゃなくて、会話のルールが違っただけなのか」

「そういうことです。潮目さんはサッカーの試合に、一人だけ野球のルールで参加していたようなものですよ」

「なんだか少し楽になったよ! ってことは、今度から僕の額に『白波所長直属』って電光掲示板でもつければ会話が弾むかな!?」

潮目が突飛なアイデアを叫ぶ。

「ボスに消されますよ。あと、ラボの備品で勝手な工作をするのはやめてください」

ナギはピシャリとそれを否定した。

「でも、もしこの『会話の勝利ポイント』みたいなのをリアルタイムで計測できるデバイスがあったら、面白くないですか? 誰がマウントを取って、誰が聞き役に徹してポイントを稼いでるか、全部データで可視化するんだ!」

「……その観測機材、少し興味がありますね。センサーの仕様書、あとで提出してください」

意外にもナギがそのガジェット開発の妄想に乗っかり、二人の目は子供のように輝き始めた。


データと風景、そして人間のあいだ

「結局、みんな分かりやすい物語が好きなんだなあ」

ひとしきり盛り上がった後、潮目はぽつりと呟いた。

「『難解な研究をしている昔の同級生』より、『すごい美女の上司を持つ昔の同級生』のほうが、よっぽどキャッチーで、消費しやすい物語だもんね」

「人間もまた、我々の観測対象ですから」

ナギは静かに返す。

「その複雑で、時に非合理的な生態もまた、美しいデータの一つです」

潮目は何も言わず、ラボの大きな窓から見える街の夜景に目を向けた。

きらめく無数の光は、まるで膨大な観測データのようだ。

「データと風景のあいだ、か……」

その間にいる、僕たち人間のことも、もっと観測しなくちゃいけないのかもしれないな。

潮目は、少しだけ疲れた顔で、でもどこか満足そうに微笑んでいた。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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