UNKN_LEVEL: ★★☆:少し不思議

鮭と鱒、鷹と鷲。似て非なるものたちの境界線で、僕らは何を想うのか

鮭と鱒、鷹と鷲。似て非なるものたちの境界線で、僕らは何を想うのか
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静寂が問いかける夜

パチ、パチ、と乾いた薪が爆ぜる音だけが響いている。

潮目と助手のナギは、観測の合間に小さな焚き火を囲んでいた。揺らめく炎が、彼らの顔をぼんやりと照らし出す。

「潮目さん」

不意に、ナギが静寂を破った。

「鮭と鱒って、結局何が違うんでしたっけ」

「え? 急だね。ええと、生物学的には同じサケ科サケ属で、海に下るか、川に残るかで呼び名が変わるケースが多いんだ。ニジマスが海に行くとスチールヘッドになったり…」

潮目が早口で解説しかけると、ナギは空を見上げたまま続けた。

「鷹と鷲も、基本的には大きさの違いで、分類上は明確な線引きがないとか」

「そうだね。似ているようで、違う。違うようで、実は同じ。自然界にはそんな境界線が曖昧な生き物がたくさんいる」

「境界線、ですか」

ナギは、炎の向こうを見つめている。その瞳には、いつもより少しだけ哲学的な色が浮かんでいるように見えた。

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ライオンとトラ、百獣の王たちの共通点

「そのテーマ、面白いな。じゃあ、もっと分かりやすい例はどうかな。ライオンとトラ」

潮目がそう言うと、ナギは手元のタブレットを静かに操作した。

「その二頭については、違いと同じくらい、無視できない共通点を示すデータがあります」

画面に表示されたのは、海外の科学ニュースサイトの記事だった。

Both big cats face threats from human conflict, habitat loss and climate change. ""They need active conservation to protect and to help improve if we're going to not have them slip away,"" Shanks said.
(日本語訳:どちらの大型ネコ科動物も、人間との衝突、生息地の喪失、気候変動による脅威に直面しています。「彼らが姿を消してしまわないようにするためには、保護し、改善を助けるための積極的な保全活動が必要です」とシャンクス氏は語りました)
出典: What's the difference between a lion and a tiger? (Live Science)

「うーん…これは彼らの違いじゃなくて、彼らが置かれた悲しい共通点の話だね」

焚き火の暖かさとは裏腹に、少しだけ心が冷えるようなデータだった。


境界線を越えるテクノロジーの夢

「でもさ、でもさ! もしこのライオンとトラが自然界で出会ったら、最強のハイブリッド生物が生まれるんじゃないかな!? その名も『ライ・ガー』! いや、『タイ・オン』!」

潮目は思わず身を乗り出して、ありえない空想を語った。

「ライガーもタイゴンも、人為的な環境下で生まれた実例はあります。ですが、自然界では生息地がアフリカとアジアで全く違うので、まず出会えません」

ナギは潮目のロマンを一刀両断する。

「それに、彼らの多くは一代限りで子孫を残せず、遺伝的な問題を抱えることも多い。自然の摂理というのは、我々が思うより繊細なんです」

「そっか……ロマンがないなあ」

潮目はがっくりと肩を落とす。でも、すぐに新しいアイデアが閃いた。

「じゃあさ! この『種の違い』とか『個体差』を、フィールドで瞬時に判別する技術はどうかな!? 現場に落ちてた毛一本から、ライオンか、トラか、あるいは未知の新種かを特定するハンディDNAシーケンサー! これをラボトロニカの次世代観測ドローンに搭載するんだ!」

「サンプルを自動採取するマイクロアームの精度と、オンサイトでのシーケンスにかかる時間、そして何よりバッテリーの問題をクリアできれば、ですね」

ナギは冷静に返す。

「まあ、今のラボの予算では夢のまた夢ですが」

「夢を見るのが僕らの仕事だろ!」

まあ、予算という現実の壁は、百獣の王より手強いんだけどね。


そしてカモノハシへの嘆き

しばらく、また沈黙が続いた。炎が静かに揺れている。

「……私にとって」

ナギが、ぽつりと呟いた。

「究極の『似て非なるもの』は、カモノハシです」

「えっ、カモノハシ?」

予想外の名前の登場に、潮目は思わず聞き返した。

「ええ。哺乳類なのに卵を産み、鳥類のようなクチバシを持ち、爬虫類のようにオスは毒を持つ。あらゆる分類学上の境界線を曖昧にする、完璧で究極の存在です」

その口調は、いつになく熱を帯びていた。

「……ラボで飼育できませんかね」

「できるわけないでしょ! ワシントン条約で厳重に保護されてるし、そもそも生態が特殊すぎて飼育は超絶難しいんだから!」

潮目は全力でツッコミを入れる。全く、この助手は時々、突拍子もないことを言い出す。

「はぁ……」

ナギは、心底がっかりしたような深いため息をついた。

「ほら、ナギ君。そんなに生き物を愛でたいならさ、ラボの裏の倉庫によく来る野良猫がいるじゃないか。あいつで我慢しなよ」

潮目がそう言うと、ナギは少しだけ不満そうに唇を尖らせた。だが、その横顔は、焚き火の光を浴びて、ほんの少しだけ、笑っているようにも見えた。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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