UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

良かれと思って飲んだサプリが、体内で戦争を起こす可能性

良かれと思って飲んだサプリが、体内で戦争を起こす可能性
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栄養素の迷宮

ラボの片隅で、潮目研究員が溜息混じりにタブレットの画面を眺めていた。その横には、栄養成分表示がびっしりと書かれたサプリメントの空き箱が転がっている。

「いやはや、どうも最近体のキレが悪いんですよね……」

潮目がぼやく。その声に応じたのは、彼の助手を務めるナギだった。

「潮目さん。それは単純に、食生活に問題があるのでは?」

「うーん、分かってはいるんですけどね。独り身の男には栄養バランスの取れた食事なんて、フィールドワークより難易度が高いんですよ。だから、こう、手っ取り早く解決しようかと」

潮目は机に並べた数種類のビタミン剤のボトルを指差す。

「安直ですね。どの栄養素が足りないと特定できているんですか?」

「それが分からないから、とりあえず全部入っているマルチなやつを、と。結局、何が足りないか分からないから、準備するしかないじゃないですか」

諦めたように潮目は肩をすくめる。その様子を見て、ナギは静かに口を開いた。


ビタミンDの裏切り

「潮目さん。その『良かれと思って』という行動が、かえって良くない結果を招く可能性もありますよ」

「え? どういうことですか、ナギ君」

「例えば、潮目さんがよく気にされているビタミンD。太陽を浴びる時間が少ない現代人には必須、なんて言いますが」

ナギはそう前置きして、手元の端末から一つのデータを表示した。

However, we discovered that vitamin D2 supplements can actually decrease levels of vitamin D3 in the body, which is a previously unknown effect of taking these supplements.
(しかし、我々はビタミンD2サプリメントが実際に体内のビタミンD3レベルを減少させる可能性があることを発見しました。これは、これらのサプリメントを摂取することのこれまで知られていなかった効果です。)
出典: Scientists warn popular vitamin D supplement may have a “previously unknown” downside : University of Surrey (配信元: ScienceDaily)

「ええっ!? ビタミンD2を摂ると、ビタミンD3が減る!? 同じビタミンDの仲間じゃないんですか!?」

潮目が驚きの声を上げる。

「ええ。そして、元になった論文のデータはもっと直接的です」

ナギは冷静に、一次情報の画面を潮目に見せた。

Study participants who received vitamin D2 supplementation showed statistically significant reductions in serum 25(OH)D3 concentrations, compared to controls without supplementation.
(ビタミンD2サプリメントを摂取した研究参加者は、サプリメントを摂取していない対照群と比較して、血清25(OH)D3濃度が統計的に有意に減少した。)
出典: Effect of Vitamin D2 Supplementation on 25-Hydroxyvitamin D3 Status: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials : Nutrition Reviews (配信元: academic.oup.com)

「うわ……本当だ。統計的に有意に減少って、はっきり書いてありますね。まさかサプリが逆効果になるなんて」

潮目は自分の持っていたビタミン剤のボトルを、恐る恐る見つめた。

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

血中の交通渋滞

「待ってください、ナギ君。これはもしかすると、壮大なドラマなのでは……?」

潮目の目に、いつものロマンを探求する光が宿る。

「体内に侵入したビタミンD2軍が、もともといた原住民のビタミンD3軍を駆逐しているんですよ! 血中という限られた領土を巡る、栄養素同士の生存競争! まるで細胞レベルの宇宙戦争です!」

「……壮大な妄想をありがとうございます、潮目さん」

ナギは呆れたように息をついた。

「戦争ではなく、単なる交通渋滞ですよ。ビタミンD2とD3は体内で同じ代謝経路、つまり同じ道路を通って処理されます。そこにD2サプリという外部からの応援部隊が大量に流れ込むと、道路が混雑して、もともといたD3が処理されにくくなる。ただの拮抗作用です」

「交通渋滞かあ。ロマンはないけど分かりやすいですね」

潮目は少しがっかりした様子だったが、すぐに目を輝かせた。

「でも、この拮抗作用を精密にコントロールできたらすごくないですか? 特定の物質の濃度を、別の物質を投入することで自在に上げ下げできる、みたいな!」

「特定の栄養素だけを狙い撃ちするナノマシンですね。ターゲットの活動を抑制したい時に、あえて拮抗する物質を散布する。観測技術としては面白いかもしれません」

「そう! フィールドの環境DNA調査で、特定の生物のDNAだけを不活性化させて他のDNAを検出しやすくするとか! いやはや、夢が広がりますね!」

「夢が広がるのは結構ですが、まずは潮目さん自身の体内で起きている交通渋滞を何とかしてください」

ナギの冷たい一言で、潮目の妄想は現実へと引き戻された。


ビタミン以前の問題

「いやはや、サプリメントの世界も奥が深い。結局、安易に頼らず、基本は食事ということですねえ」

潮目は深く頷きながら、しみじみと呟いた。

「独り身にはハードルが高い課題ですけど……」

その言葉を聞いて、ナギがふと問いかける。

「ちなみに潮目さん、昨日の夕食は何を召し上がったんですか?」

「え? 昨日ですか?」

潮目は少し考えた後、自信満々に胸を張った。

「カップ焼きそばのお湯を捨てずに、そこにプロテインの粉末を溶かして栄養満点のスープにして飲み干しました! 炭水化物もタンパク質も同時に摂れて、我ながら完璧な布陣でしたよ!」

「……」

ナギは無言になった。

そして、ゆっくりと潮目から一歩、距離を取った。

彼の表情からは一切の感情が消えていたが、その瞳の奥には明らかな「ドン引き」の色が浮かんでいた。

「(……ボスに報告して、ラボの経費で栄養指導を受けさせた方がいいかもしれませんね。これはビタミン以前の問題です)」

ナギが心中で固く誓ったことを、完璧な栄養食に満足している潮目は知る由もなかった。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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