UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

ラボは灼熱地獄?40ピコ秒の量子スイッチがもたらす「涼しい未来」

ラボは灼熱地獄?40ピコ秒の量子スイッチがもたらす「涼しい未来」
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Tシャツのセンスと計算熱

じりじりと照りつける太陽、というわけではない。ラボトロニカの観測室を熱帯に変えているのは、唸りを上げる複数のコンピュータが吐き出す排熱だ。

「暑い……暑すぎる……!」

潮目は悲鳴を上げながら、自身のTシャツの襟元をパタパタと煽いでいた。そのTシャツには、デフォルメされたダンゴムシのイラストと共に「I LOVE DANGOMUSHI」という文字がプリントされている。

「そのTシャツ、どこで買ったんですか」

背後から、氷のように冷たい声がかかる。助手のナギだ。彼女は涼しい顔で、分厚い耐熱グローブを潮目に差し出した。

「え、これ?この前、昆虫博物館の売店でつい……可愛いだろ、ナギ君!」

「センスについてはノーコメントです。それより、サーバーラックの裏でケーブルが溶けかけてますよ」

「うわっ、マジか!」

潮目は慌ててグローブをはめ、熱波を放つ機械の裏側へ回り込む。


40ピコ秒の壁

「もう限界だ!もっとこう、速くて、静かで、そして何より熱くならないマシンが欲しい!」

作業を終えた潮目が、汗だくでデスクに戻りながら叫んだ。その時、彼のメインモニターに、ブックマークしていた論文のタイトルがポップアップで表示された。

コンピューターや電子回路で情報の切り替えに使われるスイッチング素子は、高速化すると消費エネルギーが増えるため、ナノ秒より速く動作させることは困難とされてきた。この常識を覆し、本研究では反強磁性体を用いて、電源を切っても状態を保持する不揮発性スイッチングを、最短40ピコ秒で、かつ超低省電力で実証した。
出典: 超高速・超低省電力で動作する不揮発量子スイッチング素子 : 東京大学 (https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/11143/)

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

省電力機構の集合体

「ピ、ピコ秒!?ナノ秒の1000分の1じゃないか!」

潮目は椅子から転げ落ちそうな勢いで声を上げた。

「これまでの常識だと、速度を上げれば上げるほど、熱、つまりエネルギーロスが爆発的に増える。トレードオフの関係だったはずだ!それが……超低省電力で40ピコ秒……?」

「その通りです。これでラボのサーバーを組めば、この灼熱地獄ともお別れできるかもしれませんね」

「いや、そんなちっぽけな話じゃないだろ!これ、ヤバくないですか!?このスイッチング速度があれば、人間の思考をリアルタイムで完全にトレースできるかもしれない!つまり、意識の完全データ化、電脳空間へのダイブが現実味を帯びてくるってことだ!」

潮目が目を輝かせて熱弁する。その姿は、まるで秘密基地の計画を語る少年のようだ。

「意識のデータ化はまだSFの領域です、潮目さん。もっと現実的な話をしましょう。泥臭い、僕らの観測への影響です」

ナギは冷静に話を戻す。

「この技術の本質は『不揮発性』と『超低省電力』の両立です。つまり、電源を切っても情報を保持し、かつ動作エネルギーが極めて小さい」

「……なるほど!つまり、この素子を組み込んだ観測ドローンを作ったら……?」

「はい。バッテリー消費を劇的に抑えられます。もしかしたら、充電なしで1ヶ月間、アマゾンの奥地で昆虫の生態を定点観測し続けられるかもしれませんよ」

「マジか!それなら深海の熱水噴出孔の横に設置する無人探査機にも使える!ケーブルレスで10年分の地殻変動データを記録し続けるとか……夢が広がるな!」

二人は顔を見合わせ、ラボの熱気を忘れて未来の観測計画に胸を躍らせた。


加熱させる才能

ひとしきり盛り上がった後、潮目はふと我に返り、涼しい顔をしているナギを見つめた。

「そういえば、ナギ君は全然熱くならないよね。これだけマシンが唸ってるのに汗ひとつかいてない。排熱システムはどうなってるの?」

素朴な疑問だった。しかし、ナギは少しだけ得意げに胸を張って答えた。

「私自身が、そもそも加熱しにくい省電力機構の集合体ですから。潮目さんのように、無駄なエネルギー消費は極限まで抑えられています」

その完璧な回答に、潮目は一瞬言葉を失った。だが、すぐに悪戯っぽくニヤリと笑う。

「なるほど。そんな完璧な省電力設計のナギ君を、いつもこうして議論で“加熱”させてしまう僕は、ある意味たいした存在なのかもしれないね」

その皮肉っぽい褒め言葉に、ナギの頬がほんの僅かに、本当に僅かだけ赤く染まったように見えた。

「……っ!……次の観測データ、読み上げますよ」

ナギはぷいと顔をそむけ、早口でそう言ってごまかすのだった。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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