ジュラ紀の巨竜と、ゼンマイ仕掛けの改造野望
鉄の骨格に宿る、太古の夢
ラボの隅で、潮目は小さなパーツと格闘していた。
彼の指先で転がされているのは、くすんだ灰色のプラスチック片と、色褪せた赤いゴムキャップ。
それは彼が子供の頃に夢中になった、メカ生体ゾイドの残骸だった。
「いやはや、やっぱりゾイドは最高ですよね」
唐突な潮目の言葉に、メンテナンス作業をしていたナギが静かに顔を上げた。
「またガラクタをいじっているんですか。そのパーツ、どの機体のものかもはや判別不能ですが」
「これはロマンの塊ですよ、ナギ君!僕が恐竜に興味を持った原点なんです。このゼンマイやモーターで動く骨格、生物の構造へのリスペクトが詰まってる!」
潮目は熱っぽく語る。彼にとって、恐竜の化石とゾイドのフレームは地続きの存在なのだ。
「なるほど。古代生物への探求心も、元を辿れば組み立て玩具というわけですか」
「そう!だから新種の恐竜のニュースなんて聞くと、新型ゾイドの発表みたいに胸が躍るんですよ!」
アルゼンチンから届いた「新型機」の報
その言葉を待っていたかのように、ナギは手元の端末を操作した。
「潮目さん。それなら、ちょうど興味深い観測データが入っています」
潮目の目の前のメインモニターに、英語の論文が映し出される。
Here, we present a new macronarian from the Late Jurassic Cañadón Calcáreo Formation of Argentina that reveals a great similarity with these supposed diplodocid vertebrae, but presents several traits that are different fromTehuelchesaurus, allowing us to erect a new genus and species.
(ここで我々は、アルゼンチンの後期ジュラ紀カニャドン・カルカレオ層から産出した新たなマクロナリア類を報告する。この標本は、これまでディプロドクス類とされてきた椎骨と非常に高い類似性を示すが、テウェルチェサウルスとは異なるいくつかの特徴を有しており、我々は新属新種を設立することができた。)
出典: Bicharracosaurus dionidei, gen. et sp. nov., a new macronarian (Dinosauria, Sauropoda) from the Late Jurassic Cañadón Calcáreo Formation of Argentina and the problematic early evolution of macronarians : PeerJ
「うわ! マジですか! アルゼンチンで新種のマクロナリア類! しかも後期ジュラ紀!」
潮目はモニターに食いつくように身を乗り出した。
「今までディプロドクス類だと思われていた化石が、実は新種だったと…いやはや、地層の下にはまだ見ぬロマンが眠っていますね!」
「あなたの言う『新型機』の発見、といったところでしょうか。ですが潮目さん、この話には重要な続きがあります」
ナギがさらに情報を追加する。モニターに別の記事が表示された。
Our phylogenetic analyses of the skeleton indicate thatBicharracosaurus dionideiwas related to the Brachiosauridae, which would make it the first Brachiosauridae from the Jurassic of South America.
出典: This strange giant dinosaur may change what we know about Jurassic titans : Staatliche Naturwissenschaftliche Sammlungen Bayerns
「ブラキオサウルス科に…関連? え、ってことは…」
「はい。もしこの系統解析が正しければ、南米のジュラ紀からブラキオサウルス科が発見されたのは、これが初めての事例になります」
大陸を渡った巨人の足跡
「南米初のジュラ紀ブラキオサウルス科ですって!? それって、とんでもないことじゃないですか!」
潮目の興奮は頂点に達した。
「当時の大陸の配置を考えると、ゴンドワナ大陸の恐竜の進化に新たなピースが加わることになる! ゾイドで言えば、共和国領で極秘開発されていた帝国軍の新型ゾイドの化石が見つかった、みたいなもんですよ!」
「その例えは少々飛躍しすぎです。あくまで『関連している』という段階で、確定したわけではありません」
ナギは冷静に釘を刺す。
「でも、可能性が生まれただけでも大発見です! この『ビカラコサウルス』の骨格構造…この首を支えるための筋肉の付き方とか、長い尾とのバランスの取り方とか…これを解析できれば…」
潮目の目がキラリと光った。
「そうか! この構造を応用すれば、もっと踏破性能と安定性の高い、新型のフィールド観測ユニットが開発できるかもしれない!」
「観測ユニット、ですか」
「ええ! ナギ君みたいな自律型ドローンに、このビカラコサウルスの脚部構造を移植すれば、どんな悪路でも踏破できるスーパーアシスタントが…!」
潮目の妄想は、古代の恐竜から未来のガジェットへと駆け巡っていく。
いつか君を、最強のゾイドに
一通り興奮し終えた潮目は、ふと手の中の赤いゴムキャップを見つめた。
「ゾイドの本当にすごいところは、このゴムキャップなんですよ、ナギ君」
「ゴムキャップ、ですか。動力パイプの留め具ですね」
「そう。このサイズが、シリーズを通してだいたい統一されているんです。だから、ゴジュラスmk2のキャノン砲をウルトラザウルスに増設したり、自由に改造できる。無限の可能性が広がるんですよ」
彼はそう言うと、慈しむような目でナギを見た。
「だからね、僕には野望があるんです」
「…嫌な予感がします」
「いつかナギ君を、このビカラコサウルスみたいな頑丈な脚部ユニットと、超望遠観測レンズを搭載した『ナギ・カスタム重装観測仕様』に改造してみたいって…!」
少年のように目を輝かせる潮目。
それに対し、ナギは静かに、深く、長いため息をついた。
「その前に、ご自身の足元に散乱しているケーブルをどうにかしてください。先日、私に換装されたばかりの光学センサーをまた踏み潰すおつもりですか」
ラボの片隅には、壮大な改造計画の野望と、冷静な現実のツッコミだけが響いていた。