UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

宇宙の最適航路、火星へのショートカット!!

宇宙の最適航路、火星へのショートカット!!
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静寂とコーヒー、そして溜息

深夜のラボは、サーバーの低い唸りだけが響いていた。

潮目は巨大なメインスクリーンに映し出された星図を、ただぼんやりと眺めている。

「ナギ君、プロキシマ・ケンタウリまで光の速さで飛んでも、4.2年かかるんだよな…」

「そうですね。時速10億kmで、4年以上です」

カチャリ、と音を立てて、ナギがマグカップを潮目の隣に置いた。淹れたてのコーヒーの香りが広がる。

「光ですら、この宇宙ではあまりに遅すぎる。いやはや、壮大すぎて溜息が出ますよね」

「同感です。隣町に行くのに4年かかると考えれば、絶望的な距離感ですね」

「だろ? 人類がこの太陽系から出る日は来るのかなぁ…なんて」

「火星への有人探査すら、まだ実現していませんから。放射線被ばくや補給の問題が山積みです」

ナギの冷静な言葉に、潮目は少しだけ肩を落とした。


火星へのショートカット

「でもさ! 希望の光を見つけたんだよ!」

潮目はくるりと椅子を回転させ、手元のコンソールを叩いた。スクリーンにニュース記事が映し出される。

「これを見てくれよ、ナギ君! まさに僕らのための記事だ!」

Astronauts could complete a round trip to Mars in less than a year someday, potentially cutting current mission timelines in half, according to a new study that drew inspiration from asteroid trajectories.
出典: 'I was not looking for this': Scientist accidentally finds shortcut to Mars that could slash travel time in half : Live Science

「ふむ。『小惑星の軌道から着想を得て、火星への往復ミッションを半分に短縮する可能性』、ですか」

「そう! しかも研究者は『これを探していたわけではなかった』って言ってるんだ! まさにセレンディピティ! 素晴らしい!」

潮目が興奮して立ち上がろうとしたその時、ナギは静かに別のウィンドウを開いた。

「潮目さん、落ち着いてください。その元論文も当然、解析済みです」

The 2031 opposition emerges as uniquely favorable under the CA21-plane constraint, yielding two outbound Earth Mars trajectories (33 and 56 days) and corresponding dynamically consistent return legs forming complete round-trip architectures of approximately 153 and 226 days total duration.
(2031年の衝は、CA21平面の制約下で他に類を見ないほど有利であることが明らかになり、地球から火星への2つの往路(33日と56日)と、それに対応する動的に整合性のある復路をもたらし、合計所要時間がおよそ153日と226日の完全な往復アーキテクチャを形成する。)
出典: Using asteroid early orbital data for rapid mars missions : Acta Astronautica (Science Direct)

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

ハイウェイと泥臭い現実

「最短で往復153日! すごい! すごいじゃないかナギ君!」

「ええ、驚異的な数字です。現在の一般的な計画では往復に500日以上かかると言われていますから」

「まるで宇宙のハイウェイだ! 小惑星が作った秘密の抜け道を見つけたんだよ!」

潮目は子供のようにはしゃいでいる。

「潮目さん、これは小惑星が作った道ではありません。小惑星の軌道データを解析した結果、見つかった特殊な軌道です。ワープ航法とは違いますよ」

「わかってるよ! でも、ロマンがあるじゃないか! 次はきっと異星人が作ったワームホールが見つかるんだ!」

「ワームホールの前に、まず解決すべき泥臭い問題があります」

ナギは淡々と指摘する。

「このルートは2031年の『衝』、つまり地球と火星が太陽を挟んで一直線に並ぶ、ごく特殊なタイミングでしか使えません。それに、移動時間が短縮されても、致死的な宇宙放射線が消えるわけではないんです」

「うっ…現実は厳しいな」

「ええ。ですが、この軌道計算アルゴリズムは素晴らしい。もし、この技術をラボトロニカの観測ドローンに応用できたら…」

「なるほど! 嵐を避けたり、希少生物の群れを追跡したりする際の最適航行ルートを瞬時に叩き出せるかもしれないな!」

「潮目さんの無駄な寄り道を減らし、バッテリー消費を30%は削減できるかと」

「僕の寄り道は無駄じゃない! 発見のための重要なプロセスなんだよ!」

二人の議論は、いつものように少しだけ脱線しながら熱を帯びていく。


光より速いもの

「いやはや、それにしても科学の進歩は本当に素晴らしいですよね」

潮目は再びコーヒーを一口すすり、満足げに頷いた。

「ええ。夢が広がります」

ナギも静かに同意する。ラボには、心地よい達成感と期待感が満ちていた。

「技術は日々、僕らの想像を超えていく。本当に…」

「ええ。光の速さで決定される、来年度からの社会保険料の値上げには及びませんが」

「……え?」

潮目の動きが、ピタリと止まった。

「先ほどボスから通達が。各種手当の見直しと、新たな税制についてもデータが添付されていました。決定までの速度、まさに光速です」

「な、ナギ君…」

「ちなみに、このラボの光熱費も来月から値上がりします」

「うわあああああ! 僕の夢まで課税対象にしないでくれぇ!」

深夜のラボに、潮目の悲痛な叫びが響き渡った。

ナギは静かに空になったマグカップを手に取り、小さく、本当に小さく溜息をついた。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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