UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

死せる星は新宇宙の夢を見るか?ブラックホールとグラバスターの境界線

死せる星は新宇宙の夢を見るか?ブラックホールとグラバスターの境界線
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四次元殺法コンビの記憶

ラボの休憩室。珍しく晴れた窓の外を眺めながら、潮目が懐かしい記憶の蓋を開けた。

「いやぁ、ナギ君。僕、小さい頃に夢中になった漫画があってね」

「また妙な話ですか」

ソファに座り、タブレットを操作していたナギが顔を上げずに応じる。

「某超人プロレス漫画なんだけどさ。主人公じゃなくて、顔に穴が空いてる『ブラックホール』っていうキャラが大好きだったんだよ」

「ああ、知ってます。自分の影の中にある異次元空間に相手を引きずり込むんですよね。たしかペンタゴンとかいう超人と『四次元殺法コンビ』を組んでました」

「詳しいね! そうそう! あの何でも吸い込む感じが、本物の天体のブラックホールみたいでさ。子供心にワクワクしたもんだよ」

潮目は目を輝かせて語る。その純粋な情熱に、ナギは少しだけ呆れたようにため息をついた。


星の終焉、あるいは始まりの論文

「子供心、ですか。潮目さんは今でもあまり変わらないように見えますが」

「うっ……。いや、でもさ、そのブラックホールに関する、まさに四次元殺法みたいな論文を見つけちゃったんだよ!」

そう言って潮目は、ナギのタブレットにデータを転送した。

「ほら、これ!」

we demonstrate that, under fine-tuned conditions, a gravastar can form from the nucleation and expansion of a de Sitter region with initial zero size at the center of the collapsing sphere. Furthermore, the de Sitter expansion naturally slows down near the Schwarzschild radius, where it meets the collapsing dust surface and gives rise to a static equilibrium.
(我々は、微調整された条件下において、崩壊する球体の中心に初期サイズがゼロのド・ジッター領域の核形成と膨張からグラバスターが形成されうることを実証する。さらに、ド・ジッター膨張はシュワルツシルト半径の近くで自然に減速し、そこで崩壊する塵の表面と出会い、静的な平衡状態を生み出す。)
出典: Formation of gravastars : Physical Review D (配信元: American Physical Society)

「ド・ジッター領域の核形成と膨張……! いやはや、素晴らしい響きです! 星が潰れる中心で、別の宇宙が生まれるような話じゃないか!」

「相変わらず専門用語を見るとスイッチが入りますね。その論文、もっと分かりやすく解説した二次情報もありますよ。とっくに解析済みです」

ナギは冷静に画面を切り替えた。

The researchers say their solution provides the first explanation for a question scientists have debated for roughly 25 years: how gravastars could emerge from the collapse of ordinary matter.
出典: A dying star could create a new universe instead of a black hole : Goethe University Frankfurt (配信元: ScienceDaily)

「……なるほど。25年来の謎に対する、初めての説明になるかもしれない、と」

「ええ。潮目さんが好きな『ブラックホール』とは少し違う、『グラバスター』という仮説上の天体の話ですけどね」

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

データとプロレスが交差する場所

潮目は興奮冷めやらぬ様子で立ち上がった。

「ってことはだよ、ナギ君! ブラックホールの特異点に吸い込まれて終わりじゃなくて、その先には新しい宇宙が生まれる可能性があるってことだろ!?」

「まあ、そういう解釈もできなくはないですが…」

「僕たちのこの宇宙も、もしかしたら別の宇宙で死んだ星の成れの果てなのかもしれない……。うわー、ロマンだ! まさに四次元殺法コンビが、異次元から助っ人に現れるみたいな話じゃないか!」

潮目の突飛な仮説に、ナギは静かに首を振る。

「落ち着いてください潮目さん。それはデータを拡大解釈しすぎです。そもそもグラバスターは事象の地平面を持たないとされていて、ブラックホールとは根本的に違う天体ですよ。あくまで数学的なモデルの一つです」

「むぅ……。そう言われるとそうなんだけどさ」

「それに、これが正しいとしても、観測するのは極めて困難です。泥臭い現実が待っているだけですよ」

しょんぼりする潮目だったが、すぐに別のアイデアが閃いたらしい。

「でもさ、もしこの『ド・ジッター膨張』のエネルギーを制御できたらどうなるかな? ラボトロニカの観測ドローンに組み込めば、ワープ航法が実現するかもしれない!」

「……ワープ、ですか。たしかに、目的地に一瞬で到達できるなら、私の長靴が泥だらけになる回数も減るかもしれませんね」

「だろ!? 異次元空間を通って観測ポイントへ! 素晴らしいじゃないか!」

「予算獲得のためのプレゼン資料を作ってみますか。ボスがどういう顔をするか、少し興味があります」

ナギが珍しく冗談めかして微笑んだ。


友情を断ち切るコブラツイスト

すっかり調子に乗った潮目は、ナギの肩をポンと叩いた。

「いやー、ナギ君は最高の相棒だよ! まさに僕のペンタゴンだ! たまには四次元殺法コンビみたいに、僕の影に隠れてサポートするだけじゃなくて、前に出てきてもいいんだぜ?」

潮目はニヤニヤしながら、漫画のキャラクターのポーズを真似る。

その瞬間、ナギの表情からスッと笑みが消えた。

「……そうですか」

ナギは静かに立ち上がると、流れるような動きで潮目の背後に回り込み、その腕と首を完璧なフォームでロックした。

「うぎゃあああああ!? な、ナギ君!? こ、これはコブラツイスト!?」

「ええ。友情を断ち切る技、とも言われているそうです」

ギリギリと締め上げる力は、まったく手加減がない。

「ご、ごめんなさい! 悪かったから! ギブアップ! ギブアップ!」

しばらくして、ようやく解放された潮目は床に崩れ落ちた。息も絶え絶えだ。

ナギは涼しい顔で、少し乱れた服の裾を直しながら言った。

「キン肉ドライバーじゃなかっただけ、ありがたいと思ってください」

その言葉に、潮目は何も言い返せなかった。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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