UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

白亜紀の覇者と金曜日のタコパ。アジ釣りの外道が教えてくれたこと

白亜紀の覇者と金曜日のタコパ。アジ釣りの外道が教えてくれたこと
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予期せぬ大収穫

バタンッ! と、ラボのドアが勢いよく開いた。

「見でぐだざいよぉぉぉ、ナギぐん!」

息を切らした潮目が、巨大なクーラーボックスを必死に抱えて転がり込んでくる。その顔は興奮で真っ赤だ。

「潮目さん、またケーブル踏んでますよ。それと呂律が回っていません」

冷静にコーヒーを淹れていたナギが、ため息まじりに振り返る。

「いや、そんなことよりコレ! コレを見てください! レンタルボートでアジを釣ってたら、とんでもないのが……!」

潮目がクーラーボックスの蓋を開けようとした、その瞬間。

にゅるり。

蓋の隙間から、太い腕が一本伸びてきた。蝶番を内側からこじ開け、鮮やかな吸盤が姿を現す。

「うわっ! まだ生きてる!?」

「……タコ、ですか。それもかなり大きい。スーパーのパックでは見ないサイズですね」

「根掛かりかと思ったら、コマセカゴに抱きついてたんですよ! 2キロはありますって! でも締め方が分からなくて……!」

暴れるタコと格闘する潮目を見ながら、ナギは静かにタブレットを操作した。

「タコ……。そういえば潮目さん、興味深いデータがありますよ」


古代の海に潜むクラーケン

「タコといえば! 僕もちょうど面白い論文を見つけたんですよ!」

潮目はタコを押さえつけながら、興奮気味に自分のモニターを指差した。

「これです! 白亜紀のタコは、僕らが知ってるレベルじゃないんですよ!」

ナギが眉をひそめる。

「まさかとは思いますが、その手元のタコと白亜紀を関連づける気ですか?」

「ロマンじゃないですか! 見てください、この記述を!」

With a calculated total length of ~7 to 19 meters, these octopuses may represent the largest invertebrates thus described, rivaling contemporaneous giant marine reptiles.
(計算された全長は約7〜19メートルに達し、これらのタコはこれまでに記載された中で最大の無脊椎動物であり、同時代の巨大な海洋爬虫類に匹敵する可能性がある。)
出典: Earliest octopuses were giant top predators in Cretaceous oceans : Science

「全長19メートル!? 巨大な海洋爬虫類に匹敵するって……クラーケンじゃないですか、これ!」

潮目が目を輝かせる。ナギは冷静に自身のタブレット画面を潮目に見せた。

「ええ。より分かりやすい解説記事もあります。こちらをどうぞ」

今回、新しい研究で、白亜紀後期の海でかつては捕食されていた「クラーケンのような」巨大タコが、体長は19メートルにまで大きくなり、モササウルスのような巨大海洋頂点捕食者と競合し、おそらく捕食までしていたことが示された。
出典: クラーケンのような巨大なタコは白亜紀の海の頂点捕食者であった : EurekAlert!

「モササウルスを捕食……!? あの海の恐竜をですか!? いやはや、とんでもないデータです!」

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

データとタコの足のあいだ

「こいつらの子孫が、実はまだ深海のどこかに生き残っていて……伝説のクラーケンの正体なんですよ! きっとそうです!」

クーラーボックスから逃げ出そうとするタコの足を押し戻しながら、潮目は熱弁をふるう。

「可能性はゼロではありませんが、化石記録が途絶えています。19メートル級の頂点捕食者が、これまで一度も発見されずに生き延びているとは考えにくいですね」

ナギはあっさりとロマンを切り捨てた。

「でも、タコの知能は凄まじいですよ! 高度な擬態能力、問題解決能力……。もしこの古代種の能力をラボトロニカの観測ドローンに応用できたら……ステルス機能を持った深海探査機が作れます!」

「素晴らしい発想ですが、その前に目の前のタコをどうにかするべきです。観測対象がラボの床をヌメリだらけにする前に」

その時だった。

カツン、カツン、と静かなラボにハイヒールの音が響く。

「随分と騒がしいわね。何か面白いものでも見つかったのかしら」

氷のように冷たく、しかしどこか甘美な声。潮目とナギの背筋が凍りついた。

「しょ、所長!?」

そこに立っていたのは、ラボの最高責任者、白波所長その人だった。


ラボの屋上でタコパが始まる

所長の視線が、潮目とナギ、そしてクーラーボックスで蠢くタコの間を往復する。

「……なるほど。アジ釣りの外道というわけね」

「は、はい! ですが、締め方が分からず……」

潮目がしどろもどろに答えると、所長はふっと口元を緩めた。その姿は、まるで獲物を見つけた捕食者のように美しかった。

「貸しなさい。見ていられないわ」

所長は優雅な手つきでジャケットを脱ぐと、机の上からハサミを取り、刃開く。

潮目からタコを片手でひょいと受け取る。そしてタコの目の間の少し下に刃を一突き。誰もが見たことのない手際で、一瞬のうちにタコを締めてしまった。

「え……所長、なんでそんな手際がいいんですか?」

呆然と尋ねる潮目に、所長は艶やかな黒髪を(もちろんヌメってないほうの手で)かきあげて答える。

「……昔、少しだけ嗜んだのよ。それより、最高のデータが手に入ったじゃない」

彼女は妖艶に微笑んだ。

「今夜は屋上でタコパーティーよ。ナギ、調理器具と最高の白ワインを用意してちょうだい」

「……ボス。承知しました」

ナギは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに無表情に戻り、キーボードを叩き始めた。

その夜。ラボの屋上では、タコのカルパッチョやアヒージョの香りが漂っていた。きらめく夜景をバックに、白波所長がワイングラスを傾けている。

「潮目。今日の観測対象(このタコ)、悪くないわね」

珍しく上機嫌な所長の笑顔に、潮目は顔を真っ赤にして固まるしかなかった。その横で、ナギが「ボスのデレ生態データ、サンプリング完了。永久保存プロセスに移行します」と、誰にも聞こえない声で呟いていた。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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