UNKN_LEVEL: ★★★:完全な未知

【無重力でも便秘になる原因とは?】|宇宙飛行士の腸内細菌事情と、お腹を抱える研究員の憂鬱

【無重力でも便秘になる原因とは?】|宇宙飛行士の腸内細菌事情と、お腹を抱える研究員の憂鬱
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午後二時、唸り声が響くラボの作戦会議

ラボトロニカのミーティングルームには、重苦しい空気が漂っていた。

長テーブルの端で、潮目は下腹部を両手で押さえながら脂汗を浮かべていた。

潮目「うう……っ、お腹が張って爆発しそうです……」

ナギ「自業自得ですね。一年に一回しかひかない珍しい風邪をひいたからって、市販の咳止め薬を規定量ギリギリまで飲んで耐えようとするからです」

潮目「だって咳を止めて観測データをまとめたかったんだもん! まさか咳止め薬の成分で、こんな頑固な便秘になるなんて思わないじゃないですか……!」

ナギ「多くの鎮咳去痰薬に含まれるコデイン類などは、腸の蠕動運動を強力に抑制します。お腹が動かなくなるのは医学的に当然の帰結ですよ」

白波「……潮目。定例ミーティング中に情けない声を出すのはやめなさい」

腕を組み、冷徹な視線を投げる白波所長の言葉に、潮目はビクッと背筋を伸ばそうとしたが、あまりの腹痛に再び「くの字」に折れ曲がった。

潮目「す、すみません所長……! でも本当に苦しくて。ああ、いっそ国際宇宙ステーションに行きたいです。無重力の世界に行けば、内臓が浮き上がってお腹の張りもすっきり解消するはずなんです!」

ナギ「残念ながら潮目さん、その仮説は完全に打ち砕かれています。ちょうど面白い論文を見つけました」


微小重力がもたらす腸内細菌の異変

ナギは手元の端末を素早く操作し、メインモニターへ最新の研究データを投影した。

The flight-induced changes in metabolites reflected increased protein fermentation by the gut microbiota, possibly reflecting prolonged intestinal transit time caused by microgravity.
(飛行によって誘発された代謝物の変化は、腸内細菌叢によるタンパク質発酵の増加を反映しており、これは微小重力によって引き起こされる腸内通過時間の延長を反映している可能性があります。)
出典: Longitudinal metabolomics profiles reveal increased gut microbial protein fermentation during Spaceflight : Nature Communications (配信元: nature.com)

潮目「えっ……飛行によって、腸内細菌のタンパク質発酵が増加……?」

ナギ「はい。微小重力環境に置かれた宇宙飛行士の代謝物を追跡した研究です。重力がない宇宙では、むしろ腸管内の内容物の通過時間が長くなってしまうんですよ」

The work may also have implications far beyond spaceflight. People who spend extended periods confined to bed often experience constipation as well.
出典: Blood tests reveal why astronauts get constipated in space : University of Copenhagen (配信元: ScienceDaily)

白波「地上で長期間ベッドに寝たきりになっている患者が、ひどい便秘に悩まされるのと同質の現象というわけね」

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

泥臭い地球の重力と、暴走する腸内エコシステム

潮目はモニターのグラフを見つめながら、青ざめた顔で唸った。

潮目「通過時間が延びるってことは……宇宙に行ったら、僕のお腹は今よりもっと大惨事になるってことですか!?」

ナギ「その通りです。重力による自然な刺激が失われると腸の動きが鈍り、便が滞留します。すると腸内細菌が未消化のタンパク質を過剰に発酵させ、有害な代謝産物を増やしてしまうんです」

潮目「なんてことだ……! もしかして宇宙飛行士の腸内では、未知のダークマター的なガスが発生して、体内マイクロブラックホールが形成されているのでは!?」

ナギ「突飛なオカルトに逃げないでください。ただの腐敗発酵です。泥臭い生体力学と常在菌のバランスの問題ですよ」

潮目「でもナギ君! もしこの宇宙滞在時の代謝変化メカニズムを逆手に取れば、超小型の人工重力パルスを腸にピンポイント照射して蠕動運動を強制励起する『宇宙用ガジェット・どこでもスッキリベルト』が作れるんじゃ……!」

ナギ「くだらない妄想に逃げ込む前に、目の前の自分の腸内環境をどうにかしてください。見ていて暑苦しいです」

白波「ふたりとも、そこまでにしなさい」

会議室に冷たく澄んだ声が響き、二人は口を噤んだ。

白波はため息をつきながら、ラボの救急薬品キャビネットを迷いなく開けた。


究極の選択と、輝きを取り戻した世界

白波は薬品棚の小箱を指先で弾きながら、ラベルを読み上げた。

白波「在庫にある下剤は……酸化マグネシウム、漢方の大黄製剤、そして浣腸薬ね」

潮目「ひっ……! ぼ、僕、昔から薬を飲む習慣があまりなくて……できれば自然な力で、水分と食物繊維で治したいというか……」

お腹を押さえながら後退りする潮目に、白波の冷ややかな視線が突き刺さる。

白波「飲むのが嫌なら、直接注入するのもあるでしょう」

潮目「いやその、出口に逆侵入させるものって、かなーり自然の摂理に反してると思うです、はい」

白波「ぐずぐず言っている暇はないの。午後のアジェンダがまったく進まないじゃないの」

白波は棚から一本の細長いノズルが付いた容器を取り出すと、迷いなく潮目の目の前に突きつけた。

白波「拒否権はないわ。15分後にスッキリした顔で次のアジェンダを報告しなさい。それまでミーティングは中断よ」

潮目「えぇっ!? やっぱこれ、使わないと、だめ、ですか?」

白波「いやなら私が自ら注入するわ」

白波の瞳に宿る本気の光を見た瞬間、潮目の全身から血の気が引いた。

世間には、それをご褒美と受け取るタイプの人が多少は存在するようだが、まったくもって信じられない。

潮目「ひ、ひぃぃぃっ! 自分でやりますぅぅぅっ!!」

潮目は白波の手から容器をひったくるように奪うと、脱兎の如きスピードで廊下のトイレへダッシュしていった。

ナギ「……本当に注入する気だったんですか、ボス」

白波は意味深にニッコリと微笑む。

ナギ「……」

白波は涼しい顔でコーヒーカップに口をつけた。

それから約十分後。

カチャリと静かにミーティングルームのドアが開いた。

そこに立っていたのは、先ほどまで脂汗を流していた男とは思えないほど、透き通った瞳をした潮目だった。まるで全身の憑き物が落ちたかのような、眩い笑顔を浮かべている。

潮目「……所長、世界が輝いて見えます!」

ナギ「完全に解脱した顔をしていますね。報告書を汚さないうちに、次のアジェンダに進んでください」

潮目「 重力も宇宙も関係なかったんだ! 今なら空だって飛べそうです!」

白波「そういえば初期のキン肉マンって、おならで空飛んでたわね」

潮目「えっ!? 所長、初期のキン肉マン知ってるんですか!?」

白波「知らないの? 最初はニンニクを食べて巨大化し、おならで飛んで怪獣退治をやっていたのよ。わりとすぐに超人プロレスになったけどね。ちなみに私はアシュラマンが好きだったわ。冷血面の出番があまりなくて、でもなんとなく大好きで、だから残念というかなんというか。……とにかく、腸管の流体抵抗がゼロになったのなら、さっさと午後のアジェンダを報告しなさい」

ナギ「『ボスの昭和ギャグ漫画データベース』の収集を完了。潮目さん、可逆的に軽くなったお腹でホワイトボードへどうぞ」

白波の微かな笑みに背中を押され、潮目は軽やかな足取りでホワイトボードへと歩み出したのだった。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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