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【住宅ローンは幸福度を下げるのか?】|賃貸VS持ち家論争も研究されていた!

【住宅ローンは幸福度を下げるのか?】|賃貸VS持ち家論争も研究されていた!
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賃貸vs持ち家論争

潮目は昼休みのラボで、温かいお茶をすすりながら友人の話を思い出していた。

大学時代の友人が先月結婚し、ついに念願のマイホームを手に入れたと連絡してきたのだ。

一戸建てかマンションかで奥さんと激しく衝突したらしいが、最後は利便性を取って駅近のマンションに落ち着いたという。

潮目「いやあ、毎月のローン返済は胃が痛むらしいんですけどね。それでも賃貸の頃とは満足度が桁違いだって熱弁されちゃいましたよ。壁と天井の厚さがまるで違って、隣の物音すら聞こえない静寂が手に入ったんだ、と」

ナギ「防音性能の向上は、確かに生活の質を直接押し上げますね。それで、潮目さんは触発されて引っ越す気になったのですか」

潮目「まさか! 僕の部屋はラボから徒歩三分、家賃三万八千円の木造モルタルです。安月給だからじゃなくて、ただ寝に帰るだけの箱ですからね。通勤時間ゼロこそ至高です」

ナギ「合理的ですね。机の下で仮眠を取るよりは幾分マシです」

潮目「でもねナギ君、もし戸建てを買うなら夢が広がりませんか。屋上に全自動開閉式の天体観測ドームを作って、庭には温度と湿度を完全管理した熱帯植物の温室を建てるんです!」

ナギ「潮目さん、寝に帰るだけの家に何を壮大な夢を見ているんですか。観測ドームも温室も、このラボにすべて揃っています。しかも経費で使い放題です」

潮目「それは……まあ、確かにそうなんですけど」

ナギ「言ってみれば、あなたはこの巨大な研究施設を我が物顔で賃貸しているようなものですよ」

身も蓋もない正論に打ちのめされた潮目は、その日の夜、少し寂しい気持ちを抱えたまま駅前のラーメン屋へ足を運んだ。

テーブルの端で醤油ラーメンをすすっていると、引き戸が開き、ふわりと場違いに洗練された高級香水の香りが漂ってきた。

セーターにプリーツのミニスカート姿という、やけにかわいい格好で入ってきたのは、なんとアーバン・インサイト所長の黒石である。

黒石「大盛りチャーシュー麺、麺硬めで。……あら? 奇遇ね、潮目くん」

潮目「ぶふっ!? げほっ、く、黒石所長!? なんでラーメン屋に!?」

黒石「私だってラーメン食べたくてたまらないときってあるわ。そもそも私のシンクタンクのサテライトオフィスがこの近所にあるしね。あ、お隣いいかしら? 一人で食べるより、可愛い男の子の顔を見ながらのほうがスープも美味しくなるもの」

潮目「か、からかわないでください! 都会派の黒石所長がラーメン屋に来るなんて、天変地異の前触れですよ」

黒石「そんなこといったら数百回は地球が滅んでるわね。……それより潮目くん、さっきからため息ばかり。何か悩み事かしら。家が近所なら、私のマンションに寄っていく? 眺めのいい部屋で、じっくり相談に乗ってあげるけれど」

潮目「い、いえ結構です! 実は昼間に持ち家と賃貸の話をしていて……ローンを組んで城を買うのが大人の幸せなのかな、なんて考えていただけです」

黒石「持ち家、ねえ。白波のところで泥にまみれているあなたには、ずいぶん縁遠いトピックじゃない」


ラーメンの脂以上に、重すぎる負債のデータ

黒石は届いたラーメンのスープを蓮華で一口すすると、バッグから薄型タブレットを取り出し、テーブルの調味料の脇に置いた。

黒石「ちょうど昨日、うちの『アーバン・インサイト』で分析していた論文があるのよ。夢のマイホーム神話に冷や水を浴びせるような、とびきり生々しいデータがね」

潮目「えっ、ラーメン屋で論文を開くんですか……? どれどれ……」

The larger the mortgage burden relative to the household income and the last rent paid, the larger is the negative effect on life satisfaction. We conclude that the mortgage burden of a home purchase can offset the positive effect of homeownership.
(世帯収入や最後に支払った家賃と比較して住宅ローンの負担が大きければ大きいほど、生活満足度への悪影響は大きくなる。我々は、住宅購入に伴う住宅ローンの負担が、住宅所有のプラスの効果を相殺し得ると結論付ける。)
出典: [In Debt but Still Happy? Homeownership and the Satisfactions with Housing and Life] : [Housing Policy Debate] (配信元: [Taylor & Francis Online])

潮目「うわあ……。世帯収入や以前の家賃と比べてローンの負担が大きいと、生活の満足度が下がる。せっかく家を買っても、ローンの重荷が所有の喜びを相殺しちゃうんですか!?そりゃそうだろうって思いますけど、けどやっぱりエグいな……」

黒石「そういうこと。人間はね、『自分の城』を手に入れた瞬間はドーパミンが出るけれど、毎月口座から消えていく返済額の数字を見るたびに、じわじわとコルチゾール……つまりストレスホルモンに蝕まれていくのよ」

潮目「友人は壁が厚くて快適だと言ってましたけど、それすら帳消しになるってことですか」

黒石「別の心理学メディアでも、全く同じ結論が補強されているわ。ほら、見てごらんなさい」

The cost of paying off a home loan lowered life satisfaction enough to cancel out the benefits of owning.
出典: [How Owning vs. Renting Impacts Your Psychology and Happiness] : [Psychology Today] (配信元: [psychologytoday.com])

黒石「所有のメリットを綺麗さっぱり打ち消すほどの負担感。人間心理のリアルだと思わない?」

ナギ ナギからのワンポイント解説
  • 住宅所有(Homeownership)と過大ローン負担がもたらす生活満足度への影響

    持ち家自体の所有感や心理的安定に対し、世帯収入に見合わない住宅ローンの返済プレッシャーは持続的なストレスホルモン(コルチゾール等)を生み出し、所有による満足度向上効果を相殺することがデータにより実証されている。

  • 心理的慣れ(順応)と固定費痛覚の非対称性

    住環境の向上に対する人間心理の慣れ(順応)に対し、「毎月口座から流出する過大な返済額」という負債のプレッシャーには脳が慣れにくい。不動産・住宅選択においては物理的性能のみならず、持続的負債リスクの客観的シミュレーションが不可欠となる。

  • 白波ボスの複数物件一括購入および黒石さんのバックグラウンド観測メモ

    負債ストレスを皆無にするため南房総や九州の防波堤直結物件を「一括キャッシュ」で購入したボスに対し、黒石さんが抗議。その過程で黒石さんの実家が「中島財団」であり、母方の旧姓(黒石)で自立・起業している事実をサンプリング・記録した。

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調査を継続するための推奨装備が観測されました。

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見栄と不安のワルツ、そして都市の幻影

潮目は箸を止め、じっとタブレットの画面を見つめた。

潮目「でも不思議ですね。物理的には広い空間と頑丈な壁を手に入れて、居住環境は確実にアップグレードされているはずです。なぜ脳はそれを維持するコストの方を過大評価してしまうんでしょう」

黒石「心理学では有名な話よ。人間は『良い環境』には数ヶ月で慣れて当たり前になってしまう。でも『失う恐怖』や『固定費の圧迫』という痛みには、何年経っても慣れることができないの」

潮目「なるほど……! ということはですよ、黒石所長。もしかして人間が本当に求めているのは『マイホームという物理的な箱』ではなく、『自分はこの空間を支配している』という精神的な万能感なのでは!?」

黒石「ほう? 続けて」

潮目「もしそうなら、僕が安アパートにいながらにして、VRゴーグルで視界を豪邸に偽装し、脳波を直接刺激して『三十五年のローンを完済したばかりの達成感』だけを神経に流し込めば、借金ゼロで幸福度だけを最大化できるはずです!」

黒石「ふふっ、あはは! なにそれ、完全な電脳ドラッグじゃない。相変わらず突飛な妄想ばかりね、潮目くんは」

黒石は楽しそうに笑いながら、レンゲでスープをすする。

黒石「でも現実はもっと泥臭いのよ。都市に生きる人々が家を買うのはね、支配欲だけじゃない。『周りからちゃんとした大人だと見られたい』という見栄と、『老後に住む場所を失うかもしれない』という生存の不安よ。その二つに突き動かされて、みんな背伸びしたローンを組んでしまうの」

潮目「見栄と不安……。確かに、合理的な計算だけでは説明がつかない熱狂が住宅市場にはありますね」

黒石「もしアーバン・インサイトと白波のラボで共同開発するなら、都市全体の住民のバイタルデータを集めて『その人の不安度が閾値を超えた瞬間、自動的に住宅展示場のチラシを遮断するアプリ』でも作るべきかしらね」

潮目「あはは! それ、不動産会社からものすごい勢いで命を狙われそうですよ!」


鳴り響く着信音と、去りゆく香水

思いがけず議論が盛り上がり、二人はあっという間にラーメンを平らげてしまった。

黒石「ごちそうさま。ふふ、たまにはこういう油っこい夕食も悪くないわね。潮目くん、この後もう少し付き合わない? 駅前のバーで、白波の昔の恥ずかしい弱みでも教えてあげる……」

黒石が妖艶に微笑み、テーブルの下で潮目の膝へ指先を滑らせようとしたその瞬間。

『いらっしゃいませー!』という威勢の良い店員の声とは裏腹に、なんとなく潮目の背後に凍てつく気配が現れた。

白波「……人の部下に色仕掛けするのはやめてもらえるかしら、黒石」

潮目「!」

黒石「!」

首が千切れんばかりに振り返る二人の眼の前に、帰宅仕様の黒いジャケットに身を包んだ白波がいた。

黒石「し、白波ちゃん!? なんでこんなラーメン屋に……!?」

大将が『こんなラーメン屋』というセリフに一瞬反応し、黒石は小さくなって舌を出す。

白波「別にいいでしょう。ちょうど近くで『契約』を済ませてきた帰りよ。……大盛りネギラーメン、脂多めで」

冷酷な美貌に似合わないギトギトの注文をさらりと言い放つと、白波は潮目の隣の椅子をサッと引き、優雅に腰を下ろした。

白波「黒石、さっきのあなたの分析、なかなか筋が良かったわよ」

黒石「えっ……? 聞いていたの?(地獄耳……)」

じろりと白波は黒石を上から見下ろす視線を浴びせて、再び黒石は小さくなって舌を出す。

白波「ええ。所有の満足度を殺す最大の要因は『不動産そのもの』ではなく『過大な住宅ローンという持続的負債』にある。極めて科学的で妥当な結論ね。言われてみればもっともだけれど、数字が自分に降りかかるまでは、その想像力すら鈍化するのが大多数の人間心理ね」

黒石「ふふん、でしょう? 感覚より理性とデータを優先するクセをつけないとね。希望とデータが相反するときに希望を取っちゃ駄目なのよ。実践するのは難しいかもだけど、過剰な負債を抱えずに流動性を保つのが、賢い大人の生き方なのよ」

勝ち誇る黒石に対し、白波は鞄から出しかけた重要書類の封筒をチラリと見せながら、淡々と告げた。

白波「ええ。だから私も、南房総と、あと九州にいくつか、防波堤まで徒歩10分の中古戸建てを、『一括キャッシュ』で購入したわ。これでローン負債によるストレスはゼロ。所有のメリットだけを100%享受できるわね」

潮目「つ、強すぎるーーーーーっ!?」

黒石「ちょっと白波ちゃん!? ローン持ち家VS賃貸を、力技で殴り倒さないでよっ!」

白波「何いってんの、あんたのほうが実家太いし、私よりもってるでしょ」

潮目「へ?そうなんですか黒石所長?」

黒石「え、えーと……」

白波「潮目、こいつの実家は泣く子も黙る中島財……」

黒石「だめだめ白波ちゃん、そこまで!私は家とは関係なく、自力で頑張ってんだから、そこは内緒で!」

潮目「中島財……って、ひょっとして中島財団? あの国内最大手の巨大コンツェルン!? 黒石所長って、超お嬢様? うそ、そんな人がラーメン屋でチャーシュー麺すすってたの!?」

黒石「あー、もうバレちゃったじゃない」

潮目「いえ、なにかもともと雰囲気あるから、只者じゃないとは思ってました。けどなんで中島なのに黒石性なんです?」

黒石「母親の旧姓を仕事で使ってるだけ。色々めんどくさいこと多かったもんね」

白波「そもそもあんた、存在自体がめんどくさいでしょ」

黒石「ひっどー!そんなこといったら、今この場で潮目くんに、あんたの学生時代の恥ずかしい話ばらすからね!」

色々と騒がしくなったが、もともと賑やかな店内ではあまり目立たない女二人の掛け合いであった。

日本有数の強者の二人に挟まれて、潮目はちょっとだけ異世界に迷い込んだ気分である。

こうして今日もまた、夜は更けていくのだった。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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