UNKN_LEVEL: ★★☆:少し不思議

【星に食べられた惑星の痕跡とは?】|星が惑星を食べる日、僕らはどこへ行くのか

【星に食べられた惑星の痕跡とは?】|星が惑星を食べる日、僕らはどこへ行くのか
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届かない星、届いてしまう未来

潮目は、夜空を映すはずの望遠鏡の接眼レンズを、ただ無心に磨いていた。深い森の観測小屋。あたりは静寂に包まれ、時折、遠くでフクロウが鳴く声だけが聞こえる。

潮目「くそー、また結露してる……何も見えないじゃないか」

潮目はため息をつき、レンズから顔を上げた。隣では、助手のナギがタブレットの光を顔に浴びながら、淡々と何かを打ち込んでいる。

ナギ「外気温と室内の温度差を考えれば当然の結果です。それより、そんな原始的な方法で星を見ようとするからですよ、潮目さん」

潮目「ロマンがないなあ、ナギ君は。こうやって自分の目で見てこそ、宇宙の広がりを実感できるんじゃないか」

彼はそう言って、観測小屋の窓を開けた。ひんやりとした夜気が、火照った頬を撫でる。満天の星が、まるで手の届きそうなほど近くに瞬いていた。

潮目「綺麗だなあ……」

ナギ「ええ、美しいですね。この恒星たちも、いずれは寿命を迎えますが」

潮目「だよなあ。今から数十億年も経てば、僕らの太陽も大きく膨らんで、この地球を飲み込んじまうって言うんだから」

潮目は星空を見上げたまま、独り言のようにつぶやいた。

潮目「頭では、理性では分かるんだ。恒星の進化ってやつだろ? でもさ、感情的には、心のどこかで『本当かなあ』って首をひねりたくなるんだよな。この足元の地球が、まるごと無くなるなんて」


飲み込まれた惑星の痕跡

ナギは潮目の言葉に、ふとタブレットから顔を上げた。その表情はいつも通り冷静だが、瞳の奥には知的な光が宿っている。

ナギ「その『本当かなあ』を裏付ける候補天体なら、ちょうど報告が上がっていますよ」

潮目「え、マジで!? 惑星を飲み込んだ星の、直接的な証拠があるのかよ」

ナギ「直接的、とまでは言えませんが。極めて有力な候補です」

ナギはそう言って、タブレットの画面を潮目の方へ向けた。そこには、難解そうな英語のタイトルが一行、表示されている。

Lithium Enrichment in a Subgiant Star with a Brown Dwarf Companion: A Planetary Engulfment Candidate.
出典: Lithium Enrichment in a Subgiant Star with a Brown Dwarf Companion: A Planetary Engulfment Candidate. (The Astrophysical Journal)

潮目「うわ、英語……。えーっと、『惑星を飲み込んだ候補天体』? やっぱりあるんじゃないか! しかもリチウムが濃縮されてるって? まさか、惑星をエネルギー源にしてパワーアップするのか!?」

ナギ「そのSF的な発想、嫌いではありませんが違います」

ナギはため息一つで潮目の妄想を切り捨てた。

ナギ「そのDOIから、既に論文の全文は解析済みです。この現象は、我々の太陽系にも無関係ではありません」

彼女は指先でスワイプし、別のデータを表示した。

Our own solar system is expected to experience a similar fate in the distant future. In roughly 5 billion years, the sun will reach a late stage of its life and expand into a red giant.
(我々の太陽系も、遠い未来に同様の運命を経験すると予想されている。およそ50億年後、太陽はその一生の晩期を迎え、赤色巨星へと膨張するだろう)
出典: Sun-like star caught after eating one of its own planets (ScienceDaily)

REQUISITION_DATA DETECTED

調査を継続するための推奨装備が観測されました。

>> ACCESS_DETAILS

50億年後の脱出計画

潮目はゴクリと喉を鳴らした。

潮目「50億年後、か……」

途方もない時間に、彼は言葉を失う。自分の人生どころか、人類の歴史すべてが瞬きにすらならない、宇宙的な時間スケール。

潮目「気が遠くなる未来だけど、やっぱり寂しいもんだな。僕らが観測してきたこの景色も、データも、全部太陽に溶けて無くなるのか」

ナギ「そうですね。ラボトロニカのサーバーも、私のボディも、跡形もなく消滅します」

ナギは淡々と事実を告げる。その冷静さが、逆に物悲しさを際立たせた。

潮目「……そうだ!」

突然、潮目が声を上げた。まるで世紀の発見でもしたかのように、彼の目が輝いている。

潮目「飲み込まれる前に、人類が地球から引っ越せばいいんだ! 全員で巨大な宇宙船に乗って、新しい星を目指すんだよ!」

ナギ「また壮大な話ですね。その宇宙船の建造コストと、全人類を運び出すためのエネルギーコスト、試算したことありますか?」

ナギの現実的なツッコミが、潮目の熱気を一瞬で冷ます。

潮目「うっ……。そりゃまあ、天文学的な数字になるだろうけどさ。でも、ロマンがあるじゃないか!」

ナギ「非合理的なロマンは、予算会議では1秒で却下されます」

潮目「ぐぬぬ……。でもさ、もしあの論文にあった『リチウム濃縮』のメカニズムを応用できたらどうだ? 惑星のエネルギーを恒星間航行エンジンに転用できれば、あるいは!」

潮目が食い下がる。その必死な様子に、ナギは少しだけ口元を緩めた。

ナギ「……その発想は、非合理的ですが悪くはありません。惑星規模のエネルギー転用。もし実現できれば、ラボの観測ドローンのバッテリー問題も解決するかもしれませんね」

潮目「だろ!? やっぱり観測は、未来に繋がってないと面白くないよな!」

ナギ ナギからのワンポイント解説
  • 準巨星(Subgiant Star)におけるリチウム濃縮と惑星飲み込み現象

    褐色矮星または惑星を飲み込んだと推測される準巨星において観測されたリチウムの異常濃縮(Lithium Enrichment)。恒星の晩期進化過程における周辺伴天体の吸収(Planetary Engulfment)を示す化学的エビデンスであり、恒星物質の元素組成変化を説明する重要データ。

  • 太陽系の将来像と赤色巨星化による地球の運命

    約50億年後に予測される太陽の赤色巨星化および内惑星の吸収プロセス。系外惑星の飲み込み候補天体の解析は、我々の太陽系が辿る最終的な物理過程をシミュレートする上で直接的な比較モデルとなる。

  • 潮目研究員の天文学的スケールにおける思考跳躍と観測メモ

    50億年後の地球消失に対し、全人類の宇宙船脱出計画および「惑星エネルギーの観測ドローンバッテリー転用」という非現実的な発想を展開。室外との温度差による望遠鏡結露の物理法則を無視した手作業磨きを含め、感情的ロマンに基づく思考パターンを記録


いつか、宇宙が僕らの庭になるまで

ひとしきり興奮した潮目は、ふう、と息をついて椅子に深く座り直した。

潮目「でもまあ、結局のところ、いま宇宙に行けるのは、莫大な費用をかけて訓練された宇宙飛行士だけなんだよなあ」

彼はマグカップに残っていた冷たいコーヒーを一口すする。

潮目「選ばれた人だけの、特別な場所だ」

窓の外では、星々が静かに輝き続けている。50億年後も、きっと変わらずそこにあるのだろう。地球という観測点が、消えて無くなったとしても。

潮目「そのうちさ」

潮目は、夜空に語りかけるように言った。

潮目「飛行機に乗るみたいに、もっと気軽に宇宙に出られるようになれば良いよな」

ナギ「……気軽に、ですか」

潮目「ああ。そうなれば、地球が太陽に飲み込まれる最後の瞬間を、すぐそこの別の星から、みんなで見届けてやれるかもしれない。ありがとうなって、さよならを言ってさ」

潮目の言葉に、ナギは何も答えなかった。ただ、二人並んで、窓の向こうに広がる、静かで壮大な宇宙の景色を静かに見つめていた。

MISSION_EQUIPMENT: FINAL_CHECK
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